199X年。

世界は。死の灰が降り注ぎ悪病が横行する陰鬱の時代に・・・っ!









なってませんでした!!

そして、時代は21世紀。医療機関はますます充実し、平均寿命は延びに延び、人々は健康な生活を謳歌していた。
そんな中、


ココは東京吉祥寺駅東口から出た商店街にひっそり佇む小さな接骨院「奇跡の村」。

「本当に、もう普段通りに腕動かしていいんスね?」

「心配ない。完治した」

「よっしゃあぁーーっ!」
「やったな大輔!」
「さんきゅな、心配かけたな裕喜!」

目の前の白髪の医師から怪我の回復を告げられたライトブラウンの短髪の少年、大輔は、傍らにいた坊主頭の少年裕喜と、ハイタッチして歓声をあげた。
そんな姿に白髪の医師も微笑んだ。どこまでも柔和な優しい笑顔だ。

「しかし、まだ治りかけなのだから無理は禁物だよ。そうだ。私が処方した張り薬は・・・うぐっ・・ごほっごほっ」

「どうかしたんスか先生?」

突然咳き込み始めた医師に大輔と裕喜は、心配になって、背中でも擦ってやろうかと立ち上がろうとした。

その時だった。

「ゴハアッ!」

「うわあーーっ!?」
「吐血ーーっ!?」

いきなり目の前で医師が勢いよく血を吐いたのだ。
鯨の潮のように噴射したそれが診察室のカーテンを汚し、さながら殺害現場か、ホラー映画のような様相を呈した。

「私が処方した張り薬は大丈夫かな?」

いまだ咳き込みながらそう尋ねる医師に大輔と裕喜は、「アンタがもう大丈夫じゃねえよ。」と、心の中で突っ込んだ。

この医師。名を霞杜祈(かすみとき)という。
北斗神拳第六十四代伝承者となるはずだったこの男は、安穏とした世の中に正体原因不明の病を患っていた。


「新人アルバイト・・ですか?」

「そう、ほら、青木くんが急な盲腸で入院しちゃったから、プロデューサーも慌てて・・」

「確かに、今週はコンサートもあるし人手不足は痛いですからね」

「今は猫の手も借りたい、というのが本音だろうな」


所かわって、ココは東京吉祥寺にある五車プロモーションの持ちビル、スタジオPCA。時刻は午後2時。
ここの休憩室で、藤田麻美耶、松風麗奈、そしてココとナッツの4人は遅い昼食をとりながら、今後の仕事について話し合っていた。
事態は密かに逼迫(ひっぱく)していた。

まず、今週はPCA21の2回目の日本帝国武道館でのコンサートが催される。
これまで秋葉原に所在を置く、ホームホールから発進したためか、オタクどもに祭り上げられた、素人の子ども集団。との心ない批判の意見も多かったPCAメンバーだったが、ドラマ、ラジオ、バラエティーなどなど様々な仕事を一生懸命に頑張ってこなし、ようやく周囲にも認められるようになり、今では女児を中心に子ども達にも大人気の新星アイドルグループへと成長した。
もちろん、まだ年若く過ちも多い彼女らのこと。時にはワガママが過ぎたり、派手なイタズラをしでかして周囲の人間に多大な迷惑をかけることもあった。
しかし、その都度マミヤ達教育係の先生が、優しく、時には厳し〜〜く指導してきた。おイタが過ぎた娘のカワイイおしりを丸出しにしてペンペンしては真っ赤に腫らせてワンワンと泣かせたことも沢山ある。
そんな苦労をしてやっとたどり着いた2回目の武道館コンサート。何としても成功させたい。
ところが、一昨日になって、働き者のAD青木くんが急な盲腸で入院してしまったために、人手が足りないという事態に直面してしまっているのだ。このままでは大切なコンサートに影を落としてしまうことにもなりかねない。そこで、レイナの兄でもある総合プロデューサー松風爽雅は急遽バイトを一般向けに募集したというワケだ。

「それで、誰なんです?新しいバイトさんて」

牛乳を片手に身を乗り出してサンドイッチを頬張るマミヤに尋ねるレイナ。ココとナッツも、それぞれシュークリームと豆大福を片手に興味津々である。ちょっと迷いながらも、マミヤはゆっくりと話始めた。

「うん・・実はね・・・その人・・」

「マミヤさ〜ん、新しいバイトの方来られましたよ〜」
「先生たっだいまー♪」
「撮影終わりました〜!オンエア今度の12日ですって!」
「みんな頑張ってディレクターさんにご褒美のドーナツ買ってもらっちゃいました〜♪」

マミヤが話し出したことを遮って4つの声が入り口から響いた。



 

 


「うーん、ポイズニーくんもダメだったかぁ〜、中々しぶといなプリキュアめ。で、ポイズニーくんはどうしてるかな?ルーガルー・・もとい、オリヴィエ」

「アンタに言われた通り、駅前でティッシュ配ってるよ」

再び所かわって、ココは悪の秘密結社「ワルサーシヨッカー」本社ビルディングの社長室。
赤髪長身の男性、サラマンダー・藤原は、ソファで雑誌をパラパラ読んでいる蒼髪の少年、オリヴィエに部下の失敗を愚痴っていた。

先日、ピーサードに続いて、プリキュアをイジめてやろうと放った第2の刺客、ポイズニーだったが、彼女も工事現場にてプリキュアに敗北し、プリキュアを降参させるには至らなかった。
そのポイズニーくんによれば、なんでも鋼の筋肉を鎧のように纏った大男が邪魔をしたということらしいが、言い訳に聞こえてしまったサラマンダー社長は、ピーサードくんと同じくポイズニーくんもティッシュ配りのお仕置き送りにしてしまったのだ。

「いないかな〜、頼りになるヤツは・・」
「そんなに言うなら社長。アンタが行けばいいだろ?」
「え?イヤだよ。だってわざわざ社長がノコノコと出ていったらカッコ悪いだろ?」

そうあっけらかんと答えるサラマンダーに、論点はソコか?と、ガックリうなだれるオリヴィエ。

やや沈黙が流れた後、突如、

ドカンッ!

という轟音とともに、社長室のドアが吹き飛んだ。

「うわあっ?」
「おおっ?」

思わず身を縮めるサラマンダーとオリヴィエ。
ドアの向こうには、銀髪のモヒカンに、体操選手のようなユニフォームを着た筋骨隆々の大男が立っていた。

「ホガッ、サラマンダー様お困り!俺役に立つ!ウッガ」

「おぉ〜♪ゲキドラーゴくん」

ドアの向こうの大男に、サラマンダーは顔を綻ばせた。

ゲキドラーゴ・石井。

元は巨体、怪力がウリのプロレスラーだったが、数年前の興業で、彼のファイトを目にしたサラマンダーにスカウトされ、現在はワルサーシヨッカーで働いている。
頭はいいとは言えないが、その怪力を生かした様々な働きはザケンナー部門きっての武闘派と言われ、サラマンダーも個人的に気に入っている。そんなサラマンダーをゲキドラーゴも心底尊敬していた。

「しかしゲキドラーゴくん、社長室に入る時はノックしてくれないとビックリしちゃうじゃないか」

「ホガッ俺、ちゃんとサラマンダー様いった通りノックした。2回しようと思ったら、1回でドア、飛んだ」

アレはノックだったのか。余りの馬鹿力にオリヴィエは辟易した。

「そ、そうか、ちゃんと命令を守ってたんだな。エライ!エライぞ。よし、せっかくだから指令を与えよう!今日は武道館でプリキュアが今週のコンサートに向けた最後のリハーサルを行う!しかし、リハーサルの段階でメチャクチャにしてしまえばコンサート中止は必定!チケットが無駄になったらファンは当然怒り、人気は低迷、え〜ん困った〜。となるは必死!ゲキドラーゴくん、武道館に行ってリハをメチャクチャに邪魔してついでにプリキュアのお嬢さん方もやっつけてやれ!」

「ウッガ!サラマンダー様のために、俺ガンバル!ウッガホッガ!」

そう言うと地響きを立てながらゲキドラーゴくんは社長室から出ていった。

「・・大丈夫なの?」
「だって彼ボーナス安いんだも〜ん。バナナとパイナップル山程与えれば取り敢えず大喜びするし」

そんな安易な理由を聞いて、やっぱ無理かも?と思ったオリヴィエだった。



「紹介しますね。こちら新しくバイトで入ってくれる、」

「北斗神拳第六十四代伝承者候補・トキと申す」

『・・・・・』

ただただ無言の沈黙が流れた。
呆然。
マミヤたちは、目の前に立っている白髪の男性を見て中々言葉が出なかった。


「む?そなたらはマミヤ、レイナ」

「と、トキさん!」
「トキ!どーしてアナタがココに?」

「バイトだ」

「あれ?マミヤさんたちお知り合いなんですか?」

「え、ええ・・・」
「結構古い・・」

「そうですか。なら都合がいいや!私は他の準備があるので、これで失礼します。面接お願いしますね。サキちゃん、舞ちゃん、ひかりちゃん、奏ちゃんもアコちゃんもお疲れ様」

「はーい♪」

「お疲れ様でしたー」

呆気にとられるマミヤたちを置き去りに、ディレクターはそそくさと出ていってしまった。
残された大人たちの重い雰囲気に、白髪のおじさんと一緒に入ってきた少女たちは「?」の表情だ。

「トキさん・・その、なんでまた?」
「バイトだ」

「いや、あの、先輩が言ってるのはそーゆーコトじゃなくて・・トキ、接骨院は?どうしたの?」

マミヤと、レイナに両から尋ねられ、咳払いしてから白髪の男性、トキは話し始めた。

「実は私の接骨院の裏手に超近代設備の整った接骨院が新たに開業してな。以来、そちらに客をとられがちなのだ。昨日とうとう赤字になってしまったので思い切って新しいバイトでも始めてみようかと・・」

そんな時にウチの募集を見つけたワケか。
マミヤとレイナは顔を見合わせた。
2人はトキを昔からしっている。芸能関係の仕事など、彼の性格からは一番縁遠い気がした。

「・・・どうしましょ?先輩」
「人手が足りないのは確かだし・・・トキさんにはなるべく簡単な雑用してもらいましょ。ココさんもナッツさんも。それでいいわね?」

事情が呑み込めたココとナッツも、それぞれ頷く。

「なになに?このおじさん先生達の知り合い?ラッキーじゃん!」

「咲!初対面の人に向かって失礼よ!はじめまして、美翔舞といいます。この子は日向咲。マミヤ先生やレイナ先生にはいつもお世話になっています」

「あの、九条ひかりです。よろしくお願いいたします」

「南野奏です。はじめまして。ほら、アコもご挨拶して」

「・・・・・ヨロシク」

「あ、アハハ。このコちょっと恥ずかしがり屋で・・」

と、今度はトキに可愛らしい女の子たちが、話しかけてきた。
このコたちが、今巷で若い世代に人気のアイドルグループ、PCA21だろうことはわかった。

ライトブラウンのショートヘアを頭頂部で纏めたのが特徴。人懐っこい顔がまるで子犬のように可愛い日向咲(ひゅうがさき)

紫がかった美しい黒髪をポニーテールに、纏めた大和撫子タイプの少女が美翔舞(みしょうまい)

ブロンドの密編みを長めに垂らした少々幼さの残るのが九条(くじょう)ひかり

そして、オレンジがかったショートヘアに、メガネがチャームポイント。エレンと同じく今期からPCAに加入したこのコが、PCA史上最年少メンバー。調辺(しらべ)アコである。

奏は今日はピンクのワンピースで可愛くキメている。
自己紹介してくれた少女たちに、トキも笑顔で返した。

「チィーっス!マミヤさーん。差し入れもってきましたよー」

「ああ、ありがとうバット」

「あー、バットさんだぁ!ねえねえ差し入れってなになに?オイシイもの?」

「おう、咲ちゃん。相変わらず元気いっぱいだな」

今度は、PCAの先月からのアシスタントの1人、難波伐斗が段ボールを抱えて入ってきた。そくざにオイシイもの、と判断して寄ってきた咲の頭をぐりぐり撫でながらお菓子や、軽食を渡した。

「ゴメンね。バットくん、急がせて」

「何言ってんスかココさん。気にしないで下さいよ仕事だし」

すまなそうにするココにバットは明るく答える。いくつもバイトを掛け持ちしてる彼だが、この仕事は楽しくてしかたないらしい。

「ねえねえ、バットさん、そのおっきいケーキなぁに?」

「私も気づきました。なんです?」

「本当に・・大きい」

「アハハ、咲ちゃんだけじゃなく流石にひかりちゃんも奏ちゃんも気づいたかい?でも残念。これはなぎさちゃん宛に来たファンからのプレゼントだから」

「なぁんだぁ〜・・いいなぁ、なっちゃん」

「咲ったらぁ、私たちだってこの間ファンの人からぬいぐるみ貰ったじゃない」

「う〜ん、でもケーキのほうが好きだなぁ・・」

舞に諭されるそんな正直な咲に、バットも思わず苦笑い。しかし、バットも今になって、ようやくいつもの光景に違うものが混じっていることに気がついた。

「!?・・・っ?・・え!?トキさん!?」

「バットか。しばらくだな」

「いや、しばらくっつーか・・なんでこんなとこに?」

「バイトとして入ったのだ。世話になる」

言われてバットはマミヤとレイナの顔を見た。2人ともひきつった顔でごまかすように笑っている。

「・・・だ、大丈夫なんスか?」

「あまり難しくない雑用のほうしてもらうつもりだから大丈夫よきっと」

小声でそう話しながら、マミヤとバットはお互いに頷きあった。
それならば大丈夫かも知れない。それに、

(確かケンのやつが言ってたっけな?)

回想。
美墨なぎさちゃんのケンシロウ先生へのインタビュー。

「ねえ、ケン先生のお兄さんって、あのラオウってお兄さんだけなの?」

「いや、あと1人いる。」

「あ、そうなの?その人はどんなヒトなの?」

「次兄はトキ。本来ならば彼が北斗神拳の伝承者になるはずだった男だ。心・技・体全てに優れ、何より誰より優しい人だ」


回想終わり。


(って言ってたっけな?)


だとするならば、案外人と接するこういう仕事は向いているかも知れない。そう思ってもう一度トキを見てバットは考えた。

「ま、まあ、トキさん。とりあえずは規則なんで、仕事に入ってもらう前に面接お願いして大丈夫ですかね?」

「ふむ。そうか、わかった」

ココにそう言われて、皆が見守る中、トキはココの向かい側の椅子に腰かけた。
それを見て、ココも書類とペンを用意する。

「それでは、まず何故当社で仕事をしてみたいと思われましたか?」

「ここの職場の・・うぐっ!・・ゲホッゲホッ」

「?どうかしましたか?」

突然咳き込み出したトキに、ココは勿論のこと、その場にいた皆が心配した。
そして次の瞬間。

「ゴハアッ!」


『きゃあーー!?』

『ええーー!?』

『とっ、吐血ぅーーっ!?』

いきなりトキが派手に血を吐いたもんだから、その場にいた皆がことのほか驚いた。


「ごほっごほっ、この職場の元気の良さに憧れて・・」

(何?このオジサン・・)

(元気のカケラもないんだケド・・・)

あからさまに(ヤバいよこのヒト・・)というようなひかりと舞を横目にココはつとめて明るくこう尋ねた。

「あ、あの、トキさん。その今のは・・」

「心配ない。持病の発作だ」

(持病・・・?)

「あの、病気なんじゃ?」

「ただの持病だ。至って健康だ案ずるな」

「ね、ねえ奏ちゃん、健康なヒトって口から血とか吐くのかな?」

「シィッ!そういうこと言わないで!」

淡々としたトキの口調。
当然の如く疑問をもつ咲に、奏はこれ以上突っ込んだらダメ!とばかりにぴしゃりと言ってのけた。
ココも、もはや冷や汗ダラダラ。傍らで見ているナッツまで焦って「もう、面接無しでいいんじゃないか?」とまで切り出し、バットは心で、「もしやコイツもポンコツ?」と折角の好評価を改めようとしていた。

「健康に問題があると・・ですね」
「やる気はあるのだが」

どうしたものかとココは背後のナッツを見上げた。そのナッツも困ったようにマミヤの顔を見る。マミヤは「え?自分が判断するの?」と戸惑いながらもトキの方を向いて明るく答えた。

「わ、わかりましたトキさん、採用します。トキさんはリハーサル始まるまで、メンバーの娘達に飲み物とかタオル配ったり、掃除お願いします」

その答えを聞いた途端、トキの顔がパアッと明るくなった。

「なんと!採用とな?」

「え、ええそうです」
「期待してるわね。トキ」

「ありがたい、バット、皆さんにも感謝しよう」

そう言ってバットやココ達を大袈裟に拝むトキに、皆苦笑した。

「誰?このヒト新しいバイトのヒト?」

「そうよ、トキさんって言ってマミヤ先生達のお友達!アコもちゃんとあいさつして」

早速先生達の知り合いということで、咲や舞など、その場にいたPCAメンバーに人気となったトキ。
そんなトキにまだキチンとあいさつ出来てない調辺アコが奏に連れられてやってきた。

「トキと言う。宜しく頼む」

柔和な笑みで手を差し出したトキに、アコは不機嫌に言った。

「あいさつならさっきしたじゃない。みんなバッカみたい。先生の知り合いってだけで浮かれちゃって」

「アコ!そんな言い方・・」

「じゃあね」

プイッとそっぽを向くとアコは休憩室から出ていってしまった。残された奏たちはその姿を呆然と見送るだけだった。

「トキ、ゴメンなさいね。まったくあのコったら・・・」

「気にするな。多感な時期なのだろう」

謝るレイナに、トキは笑って言った。不思議に思った奏が、レイナに近付く。

「レイナ先生、アコ・・どうしちゃったの?なんかスゴク機嫌悪いみたいだけど」

レイナはやれやれと呆れた感じで苦笑して答えた。

「アフロディテさんから電話があってね」
「?アコのママから?」
「そう、実は今日パパがお仕事から4日ぶりに帰ってくる予定だったのに仕事が忙しくて無理になっちゃったらしくて、それで今日ず〜ぅっと機嫌悪いのよ」

なるほどな。と奏は納得した。
ママやパパ、おじいちゃんが大好きで、仕事以外はべったりで甘やかされ放題にされてる彼女のことだ。パパが自分より仕事をとった!と思って腹が立ったのだ。
ようは八つ当たりである。普段人一倍ませていて仕事に態度がモロ出なのは流石に子どもである。

「そろそろリハーサル始めるぞ!他のメンバーも揃ってきた。トキさんは今日から入れるんですよね?」
「無論だ」

やる気まんまんのトキを見てナッツも満足気だ。


リハーサルが始まった。
始めはメンバー総勢23人による歌とダンスに始まり、その後は各チームに別れてダンスや、ちょっとした劇、ミュージカル、歌、ダンスが行われる。
チームはそれぞれ

チーム・MAX HEART(マックスハート)

チーム・SPLASH STAR(スプラッシュスター)

チーム・FIVE(ファイブ)

チーム・FRESH(フレッシュ)

チーム・HEART CATCH(ハートキャッチ)

そしてチーム・SUITE(スイート)の計6つのチームに分かれている。それぞれが出番ごとにはや着替えしてり、水分補給したりするのだから忙しい。
リハーサルから本番の体だ。

新人アシスタント、トキは予想に反してキビキビと良く働いた。
その働きはバットですら感心する程だった。

「ウガ、プリキュア、虐めてやる!」

そして、そんなプリキュアを倒すためにわざわざ巨体を押して天井裏に忍び込んだ、ワルサーシヨッカーのゲキドラーゴ・石井くんも見事だった。

 

 

 

 

 

 

「喉かわいちゃった、トキさんジュース〜」
「喜んで」

「おじさんタオルちょーだい!汗だくだくっ」
「喜んで」

「あーんアタシもお腹空いたケーキちょーだい!ケーキ、ケーキ!」
「喜んで」

「喜んで」 「喜んで」 「喜んで」

くるくると働くトキにバットは感心していた。

( ちゃんとメンバーのコ1人1人に気を配ってる。しかもどのコの要求にも目端を聞かせて的確に答えている。こりゃ他の兄弟よりよっぽどたよりになるぜ)


バットは想像以上のトキの働きに、評価を戻し、バイトにしておくには勿体無いとさえ思っていた。
さらにはPCAメンバーも、トキのサポートにすっかり気を良くし、「トキさん」や「オジサン」など、すっかり打ち解けたようだった。

「しかし、」

「ねぇ、衣装のリボン、無いんだケド」
「喜んで」

「・・・」

メガネにショートヘアの最年少メンバー、アコだけは、どうもまだイライラをトキにぶつけているらしく、今も無言でリボンをトキからひったくる始末だった。

(まったくもう、アコったら・・)

そろそろ少し小言を言おうかとマミヤが立ち上がったその時だった。

「アコちゃん!」

1人の少女が、背後から駆け寄ってアコの肩を掴んだ。
PCA21第3期メンバーの1人、水無月かれんだ。青みがかった豊かな黒髪のロングヘアが美しいコである。

「何があったか知らないケド、私達の為に一生懸命働いてくれてるトキさんにその態度は失礼でしょ?謝りなさい」

至極もっともな意見に流石のアコも少々怯んだが、唇を噛みながらかれんを睨むと、生意気に言い放った。

「・・かれんには関係ないでしょ?ほっといてよ!」

「ダメです。ちゃんと謝りなさい!」

「もうっ、うるさぁーい!」

突然キタ子どもの癇癪。
アコは喚きながらそばにあった大きな灰皿を掴むと、それをかれんに投げつけた。

「きゃっ」

咄嗟にかわしたのと、アコの狙いが外れたのもあって、灰皿は誰もいない宙を飛び、そして・・・

カァンっ!

「ぬお?」

なんと偶然にもスタッフの灰皿を片付けていたトキの頭に当たってしまった。
バランスを崩したトキは持っていた灰皿とともに大量の灰を撒き散らし転んでしまった。

「きゃーっ!?」

「トキさん!」

「オジサン大丈夫!?」

トキの身を案じて近寄る少女たち。
発端の行為にをマミヤが一喝した。

「アコ!なんてことしたの!?」

「え!?・・だ・・だって・・・」

アコも流石にマズイと思ったのか青い顔で立ち尽くしていた。
うなだれるアコ。

「謝りなさい!アコ。いくら機嫌が悪くてもやって良いことと悪いことがあるでしょ?」

「そうね。やりすぎよ」

「アコ、謝りなさい」

「どう見ても悪いのはお前だ」

レイナやココ、ナッツにも咎められ、アコはますます閉口してしまった。

一方、倒れたままピクリとも動かないトキにバットが駆け寄り、抱き起こした。
体は灰まみれで真っ白である。

「トキさん!トキさん!大丈夫ッスか?」

「・・・や、やあ」

するとゆっくり目をあけながらうっすらわらってそれだけ呟いた。

(えぇーーっ?なんで急にこんな老けこんでんのこの人!)

「すまない。死の灰を浴びてしまった・・」

「死の灰!?って、ただのタバコの灰でしょ?それより大丈夫なんスか?」
「だいじょ・・ぐっ、ぐふっ」

バットの問にまたしても咳き込み出したトキ。そして・・・

「ゴハアッ!」

『キャァァアーーッ!?』
「吐血2回目ーー!?」

騒ぐ少女たちやバットを見ながらトキと付き合いの長いマミヤやレイナは大したことないな。と思い、アコを再び見る。

「アコ!謝りなさいっ!」
「イヤっ!先生達なんてキライっ!」

最早意地になって反抗し続けるアコ。そんなアコにマミヤは溜め息混じりに言った。

「そう、今日のアコはとっても悪いコね。悪いコはどうなるのかしら?」

マミヤの剣幕にアコがビクついたその時、今度はスタッフ達が慌てて部屋に入ってきた。

「マミヤさん!小々田さん!大変ですー」
「ステージに怪しい大男がっ!」



「ホッガっ!プリキュアイジメる!倒す!」

マミヤ達とプリキュアメンバー達がステージに駆けつけてみると、既に筋肉ムキムキの大男が照明具を壊し暴れていた。

「あーっ!ライトが!」
「先生、あの人シヨッカーの!」

北条響と美翔舞の問いかけにマミヤは静かに頷いた。

「俺がお前らに意地悪してやる!さあかかってこい!」

「みんな、変身よっ!」

響が叫んだ。しかし、反応ガが、イマイチである。不思議に思って振り替えると・・・

「ゴメン、変身アイテムロッカーの中に忘れて来ちゃった・・」
「アタシも・・」
「私も」
「私もです」

なんと、リハーサルの場に変身アイテムを持ってきてるのはごく少数。さらには妖精たちも、プロデューサーのところに行っていてこの肝心な時に大半留守らしい。

「えー!?ナニソレぇ?」
「響ちゃん!こうなったら私達でやるしかないわよっ」

舞が非難の声を上げる響を叱咤する。
今現在変身できるのは、響、奏、エレン、アコ、咲、舞の計6人である。

「いくわよ!フェアリートーン!」
「ドドー!」「レレー!」

「おいで、フラッピ!」
「力をかしてチョッピ!」

「咲変身ラピー!」
「舞ガンバるチョピー!」

『レッツ・プレイ!プリキュアモジュレーション!』

『デュアル・スピリチュアルパワー!』

少女たちが光に包まれ、コスチュームを纏った姿が露になった。アコも、プリキュアに変身した。
金のティアラに輝く橙の二股に伸びた髪。黄色のブラウスに橙色のパンプキンスカートという可愛らしい出で立ちだ。

「爪弾くは荒ぶる調べ、キュアメロディー!」

「爪弾くはたおやかな調べ、キュアリズム!」

「爪弾くは魂の調べ、キュアビート!」

「爪弾くは女神の調べ、キュアミューズ!」


「輝く金の花、キュアブルーム!」

「きらめく銀の翼、キュアイーグレット!」


『届け!4人の組曲、スイートプリキュア』


『ふたりはプリキュア!』
「聖なる泉を汚す者よ!」
「あこぎなマネは、お止めなさい!」

「ウガーッ!ザケンナーよ!」

筋肉男が叫ぶと、黒紫の妖気が召喚される。瞬く間にそれが男が落とした照明に吸収され、デカイ魔物へと姿を変えた。

「先生たちとみんなはスタッフの人達を安全なところに!」

そう咲が言った途端、デカイ照明の化け物と筋肉男が襲いかかって来た。

「ウガーッ!」
「ザケンナー!」

『やあーっ!』
『たぁーーっ!』

プリキュアと、ザケンナー、ゲキドラーゴがステージ上で闘いを繰り広げる。
巨体を有する魔物と、ゲキドラーゴ相手に一歩も退かぬプリキュア。双方の拳や蹴りが交錯する。

しかし、

「ウッガぁー!」

「きゃあっ!」
「うあっ!」

やはりまともにぶつかると、力負けしてしまう。そんな中、1人の男がステージに上がって来た。


「待て。何奴だ?狼藉はやめよ」

「ウガ?誰だお前」

「トキさん!?」
「危ないです。逃げてぇー!」

白髪の男性がステージに上がって来たのを見て、プリキュア面々は悲痛な叫びを上げた。

「今日私は彼女らに大変世話になった。そんな彼女らを見殺しなどできぬ。さあ、おとなしく去れば私もそなたのことを見逃そう」

「ウッガ!イヤだ!プリキュアやっつけてサラマンダー様に誉めてもらう!お前こそどっか行けー!」

そう喚くとゲキドラーゴはザケンナーとともに突っ込んで来た。

「キャーーッ!」
「トキさーん!」

「・・致し方無い」

トキは襲いかかって来る怪物にゆっくり構えると、次の瞬間信じられないスピードで懐に潜り込んでいた。

「ザケンナ!?」
「ホガ?」

「北斗・有情断迅拳(ほくとうじょうだんじんけん)!」

トキが怪物を突き抜けた瞬間、怪物はズズーン!と倒れた。

「!?どうしたザケンナー!?」

「せめて痛みを知らず、安らかに逝くがいい」

ザケンナーはへにゃ〜んとなって、気持ちよさそうに脱力していた。


「あのオジサン・・」
「スゴい・・・」

「ブルーム!イーグレット!」

「今チョピ!」

フラッピとチョッピの言葉に咲と舞は頷いた。

「大地の精霊よ・・・」
「大空の精霊よ・・・」

手をかざした咲と舞の周囲に光が集約される。

「今!プリキュアとともに!」
「奇跡の力を解き放て!」

『プリキュア・ツインストリームスプラッシュ!』

2人の両手から発射された光の奔流がザケンナーを包み込んだ。

「ミューズ!今よ!」

響に言われ、アコはモジューレを取り出し、「おいで、シリー!」と叫んだ。
モジューレにシリーが組み合わされた。

「シ、の音符のシャイニングメロディー、プリキュア・スパークリングシャワー!」

アコの周囲に光の玉が咲き、矢となってザケンナーを襲う。ダブル攻撃にザケンナーは「ザケンナー!」と叫んでそのまま光に掻き消えてしまった。

「ウッガぁー!サラマンダー様に怒られる、ゲキドラーゴピーンチ!」

筋肉男はそう言って瞬く間に退散してしまった。



「スゴかったねー!」
「やっぱりケンシロウ先生みたいにトキさんも強いんだ!」

休憩所に戻ったプリキュアメンバー。早速トキを囲んできゃいきゃい騒いでいた。
騒ぎを聞き付けてメップル以下残りの妖精が戻って来たのは全てが終わった後だった。

「トキ、あの、巻き込んでおいて悪いけど、この子達のことは・・」
「わかっている。口外はせぬ。なんらかの使命を背負っているのだろう?」

トキの答えに、レイナはホッと胸を撫で下ろした。

「して、マミヤの姿が見えぬが、どうした?」



時を同じくして、マミヤは音響室のソファーで、アコと対面していた。

「アコ。今日とっても悪いコだったのわかる?」
「・・・」

俯いたままアコは答えない。自分が悪いコなのは分かっていた。
約束を破られたことでその八つ当たりをトキにぶつけたことも理解している。
でも、認めたくなかった。だって・・・

「・・パパが、悪いんだもん 」

マミヤは溜め息をついた。そして・・

「わかりました」

言いながらアコを抱き上げると、そのまま小さな体を膝の上に乗せてしまった。この体勢が何を意味するか、PCAメンバーなら誰でも知っている。
アコは途端に顔を青ざめさせてもがいた。

「やっ、やっ、・・あっ、やあぁっ、ヤダぁ!」
「反省できるように、今からお尻を痛くします!」

お尻ぺんぺん。
アコはレイナに2回ほどもらったことがあるが、その耐え難い痛みは身で思い知っている。
今日は、一番痛いと噂のマミヤ先生。もうアコは叩かれる前から泣いていた。

「やだぁ〜、うえっ、パパ!ママぁ〜」

可愛いジーンズの半ズボンの下はお気に入りの、パパに買ってもらったネコちゃんパンティ。
パンツをゆっくり下げるとまるでつきたての餅のような小さくて可愛いぷりぷりお尻が顔を見せた。
他のプリキュアメンバーも、まだ幼い小さな発達途上のお尻をしているが、アコのはそれらより、まだ2周りも小さい。マミヤの手の平ならばすっぽり覆ってしまえる。

「先生ぇっ、イヤっイヤだようっぺんぺんしないでぇ〜!」

そんなアコを無視して、手の平にハァ〜、と息を吐きかけるマミヤ。
そのままスピードをつけて降り下ろした。

パァーーンっ!

「ッッ!っきゃあぁあぁーーんっ!」

ぺーーんッッ!

「やああぁぁんっっ、いたあぁ〜〜い!」

必殺の初弾にのけぞるアコ。お尻に真っ赤な花火が見事に上がる。
そこからは他の子達より多少手加減してお尻に手を落とす。しかし、アコにとっては正に地獄の激痛だった。

ぱちんっ! ぺちんっ! ぱんっ! パンッ! ぺんっ! ペンッ!

「ぅあっ!?・・ひあっ!?、ひいぃっいたっ!いたいぃっ!いったああいっ、わあーんっっ」

「どうして、アルバイトに来てるオジサンにあんな態度とるの?ダメでしょ!?」

「だっ、だってぇ〜〜・・」

ぱっちい〜〜んッッ!

「いきゃあぁいっ!?」

「だって何?イヤなことがあったからって人に八つ当たりしちゃうの?そんなワガママ先生許しませんよ!」

ペンッ! ペンッ! ぺちんっ! ぺちぃーんっ! パシンっ! パシィーンッ!

「わっ、ワガママなんかじゃないもっ・・ぴいぃっ!?いたっ、痛いっ!痛い痛いっ!いたぁあ〜〜〜いぃっ!!いたいぃよおっ!!」

バシッ! ビシッ! パチンッ! ぺし〜〜ぃんッ! パシィ〜〜ンッ!

「反省しなさい!めっ!めっ!めっ!悪いコ!悪いコ!」

パチンッ! ぺちんっ! ぱっちいん! ペッチィ〜ンッ! ピシャンッ!!

「うえっ、うえっ、・・うえぇぇぇ〜〜〜んっっ・・ひくっひくっ・・あああぁぁぁ〜〜〜んっ!いちゃぁぃ・・いだぁあいよおぉ〜〜・・・びえぇぇ〜〜んっ!ッ!「

パンッ! パンッ! ペンッ! ペンッ! ピシャッ ピシャッ ピシャンッ! ぴっしゃあんっ!

「このお尻?いけないお尻は?反省しなきゃいけないお尻はこれね?」

ぴしゃっぴしゃっ! ぴしゃんっ! ピシャンッ! ピシャンッ! ぴっしゃあんっ!

「ああぁあぁぁ〜〜〜んっ・・ひくっひくっ・・ええぇぇんっっ!」

ぱんっぱんっ! ぺんっぺんっ! ぱぁんっ! ぱぁんっ! ぺーんっ! ペーンッ!

「いぎゃぁいっ!・・ごめっ・・ゴメンなっ・・も・・ゆるちて・・おしりっ・・ひいぃっ!!キャヒィッッ!おちりっ・・おちりぃぃ〜〜っ!」

「悪いコはゆるしませんっ!麻美耶百方弾!(まみやひゃっぽうだん)めっ!めっ!めーーーっっ!!」

麻美耶百方弾。

マミヤが悪い子をお仕置きするために編み出した必殺拳の一つである!あらゆる角度から平手により悪い子のお尻を集中砲火し、その威力によって反省させるのである。
これを受けた悪いコは灼熱の苦痛と尻が真っ赤っかにぷっくり腫れあがることから良い子になれるのだというが、その痛みたるや1週間を過ぎても後を引くというのだから恐ろしい。

ぱちぃんっ! ぺちぃーーんっ! ばちーーんっ! ぴしゃっ! ぴっしゃあぁんっ!

「ぴええぇえぇぇぇ〜〜〜〜〜〜んっっっ」



「うっ・・・ひくっ、ぐしゅっ・・ぐすんっ・・うええぇぇ・・ふえぇぇ〜〜〜・・ぴえぇぇぇ〜〜・・」

マミヤ先生の胸に抱っこされて、ただたださめざめ泣いている小学生プリキュア。
いつもはクールでスパイシーなアコちゃんであるが、お尻を叩かれて痛みのあまりにすっかり幼児にもどっていた。

「ごめんなっ・・ひくっ、ゴメンナッ・・ちゃいぃぃ・・」

「はい、よく言えました。イイコイイコ。アコちゃんはイイ子よねえ、わかってるのよ。パパがアコよりお仕事が大事になったと思ったのよね?」

泣きながら無言でコクコクうなづくアコ。

「でもねアコちゃん。だからって八つ当りはよくないのよ?わかるわね」

「ひくっ・・えくっ、うん・・・」

「じゃあちゃんと後でトキさんに謝れるわね?」

「・・・ぐすっ・・ちゃんと、ゴメンナサイ・・するぅ」

「そうね。もうしちゃいけませんよ?ハイ、もう泣かないのイイ子イイ子」

髪と、真っ赤に腫れあがって、ぷっくりとなっちゃってるアコのちっちゃいお尻。
優しくナデナデしてあげながら、マミヤはたっぷり甘えさせて上げた。



「アコ!アコぉーーーっ!!」

「パパ?・・!パパあぁ〜〜〜っ!!」

休憩室にマミヤに抱っこされて帰ってきたアコ。そんなアコを出迎えたのは、メンバーと、スタッフと、そして彼女の母、アフロディテ・調辺と会いたかった父、メフィスト・調辺だった。
メフィストはマミヤからアコをもらい受けると、ぎゅうぎゅう抱きしめて頬ずりした。

「どおして?」

「猛スピードで仕事を終わらせてきたよ!アコがえらく不機嫌だったとアフロディテに連絡をもらってね・・・すまなかったねアコ。寂しかっただろ?約束を破ってしまってゴメンよ。パパを許してくれるかい?」

そんなパパにアコは普段見せない満面の笑みで抱きついた。
そんな姿を見て、ほかのプリキュアメンバーも笑った。アコちゃんカワイイvと言わんばかりである。

「よかったわねアコ。マミヤ先生、ゴメンなさいね。アコのことでご迷惑おかけして」

マミヤは「いえいえ」とニッコリ笑った。

「よかったわねアコ、トキさんにちゃんと謝れるわね?」

「う・・うん・・」

アコはおずおずとトキに近付くと、恥ずかしそうに言った。

「あ・・あの、トキ・・おじさま。いろいろ・・・ゴメンナサイ・・」

「気にするな。大丈夫だよ。お父上に会えてよかったな」

「ホントにゴメンナサイねトキさん。ウチの子が・・・でも、可愛さに免じて許してあげてくださいね?えらかったわよアコぉ〜〜vvよく謝れたわねぇ〜♪」

とトキさんそっちのけでアコの頭をナデナデするアフロディテママ。
親バカもここまでくると病気の一種だ。とつくづく思った。

「それにしても大変だったんじゃないですか?」
「いやいや、部下の斧バスドラくんに手伝ってもらってなんとかってところですよ」

バットも仕事を切り上げることがどれほど大変かわかっているつもりだ。父親は偉大だとつくづく感じる。バットと話しているメフィストからは確かに父親の力が感じられたからだ。
和やかな雰囲気の・・・その時だった。


「いやぁ〜、今日は仕事のことなんかアコの可愛い顔を見て全部忘れたいね!」
「もうパパったら!」

「・・・・・喜んで!!」

             ピシイィッ!

「ホヘッ!?」

背後に現れた北斗の男・・・
メフィストのこめかみ辺りを指で突いていた。その瞬間茫然自失のメフィスト。

「ぱっ・・パパッ!?」

「ちょっと待て!今何した!?」

バットの言葉にトキはこともなげに答えた。

「秘孔を突いて彼の記憶を・・・」

「いいからっ!しなくていいから!はやく元に戻してっ!!」

「あっ・・・あなたぁ〜〜〜っっ」

「ココハドコ?ワタシハダレ??」

パニックに陥る周囲にさらなる混乱を呼ぶ事態が起こる。




          どてっ

「ぬぁっ!」

なんとトキさん、なにもないはずの床に足を取られ突然転んだのだ。

「ええぇ〜〜・・そこで転ぶの!?トキさん!大丈夫っスカ、トキさん」

「すまない・・だいじょう・・・・ぐっ・・」

「ぐっはあぁっっ!!」

そして本日一番の吐血が空を舞った。

『きゃあぁあぁ〜〜〜〜〜っっっ!!!???』

「また吐血ぅうぅーーーーっっ!?」

「お・・おお。見よ。バット。ずっと白かった私の髪が、流行の赤に・・・やっと白髪染め出来たか・・・もはや、悔いはない」

そのままトキは祈りを捧げた。

(それは・・・アンタの血だろ・・・やっぱこの人この仕事向いてねえ。この一族、ポンコツ集団だ)





   白髪染め

      朱に染まるわ
   
          血染めかな。


21世紀。

平和な世の中に、北斗の良心は正体不明の病を抱えていた。


             つづく